義兄の愛に人生観を変えられ……

 緑のカットソーと緑ベースのチェックのスカートを合わせて家を出た。
 空気が肌を刺すように冷たくて身震いをする。
 ひらひらと小粒の雪が遠慮がちに降っていた。
「あ、雪……」
 雪を見ると北海道でのあの日のことを思い出しそうになった。
 でも……ダメ。忘れるために今までこうして必死に生きてきたんだから。
 頭を左右に振って記憶から消そうとした。そして駅に向かって歩き出す。
 今日から私は、デザイン会社『フューチャーネイチャー』という会社の事務員として働くことになった。
 派遣会社に所属していて、そこから派遣先に行く。
 派遣先によって違うが一年から三年のところもあれば短期間で派遣されることもある。
 今回は三ヶ月という短い期間だ。
 母親が再婚してからも、私は学校で母親の性を名乗っていた。
 本来は、浅田みどりではなく久保緑なのだ。
 思春期の頃に再婚した母親のせいで、私はどうしても久保という名字に馴染めなかった。なので社会人になってからも浅田を名乗っている。
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