義兄の愛に人生観を変えられ……
大学卒業後、小説を出版するという夢が諦めきれず、私は母に内緒で小説を書き続けていた。
残業が少ないところ。休みがしっかりしている。平日の夜と土日に小説が書ける。それが私の働くための条件で就職活動していたがなかなか見つからず、派遣社員となった。
仕事が決まったことを報告すると……
『どうして安定した正社員になれないのあなたは』
二時間に渡り説教をされ、正社員になると約束して、電話を切ったのだ。
それから連絡が来ても忙しいからとごまかしながら生活している。
母は私が十五歳の時に再婚した。
亮太君という二つ年上の男の子がいて、髪の毛がサラサラと揺れていて、透き通った黒い瞳、鼻筋が高くて、唇が薄くて……
背が高くて、いつも笑顔で明るくて……
スポーツができる完璧な兄ができたのだ。
一人っ子だったのでお兄ちゃんができたというのが嬉しくてたまらなかったが、気がつけば胸に募る得体の知れない存在に怖くなることがあった。
この感情が大きくなってしまえば母の言う正しい道から逸れてしまうのではないかと思っていたからだ。
兄はいつも話を聞いて励ましてくれて『みどりは、どうしたいの?』と話を聞いてくれる人だった。
私と亮太君は同じ家に住んでいるということを隠しながら、同じ高校に通っていた。
そんなある日。
大雪が降って学校に取り残されたことがある。
教室には雪が落ち着くのを待っている生徒が何人かいた。
私のことを心配して亮太君が一年A組まで足を運んでくれた。彼は学校でかなりの人気者だったのでなぜ私のところに来たのかと残っていた生徒たちが不思議そうに見ていたのを覚えている。
ほかの人から変な目で見られているとは気づいていたがそれでも、大雪の中どうなってしまうのだろうと不安だったので近くに来てくれたことが本当に心強かった。