指先から溢れる、隠れた本能。
「……どうしよう」
心の中で呟きながら、バッグの中をまさぐったが、薬のケースは家に置き忘れたままだった。
朝から感じていた微かな体のざわつきが、徐々に強くなっている気がする。手のひらがじんわりと熱を持ち、胸の奥で何かが脈打つような感覚。普段なら気にならないはずの、オフィスの空調の音や同僚の話し声が、なぜか耳に刺さる。
午前中の業務をなんとかこなし、昼休みを迎えたが、私の体調はさらに不安定になっていた。デスクで資料を整理していると、ふとしたミスで上司に呼び出された。
「村松さん、このデータ、入力間違ってるよ。確認してから提出してね」
上司の声は穏やかだったが、私の体は一気に緊張の頂点に達した。心臓が早鐘のように鳴り、指先が震える。まるで体が自分のものではないかのような感覚に襲われ、頭がぼうっとする。その時、視界の端に映ったのは、同僚の青井蒼空だった。
「村松さん、大丈夫?」
蒼空の声は、柔らかく、どこか落ち着いた響きを持っていた。彼は私の異変に気づいたのか、眉を軽く寄せて近づいてくる。
ネイビーのスーツに身を包んだ彼の姿は、オフィスの無機質な空間の中で、どこか温かみのある存在感を放っていた。少し長めの髪が額に落ち、穏やかな瞳が私を捉える。
その一言に、私の胸がきゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。蒼空の視線、声のトーン、そっと伸ばされた手の指先がデスクに触れる瞬間──全てが、私の体を異様なまでに刺激した。頭の中が混乱し、まるで世界がゆっくりと傾くような感覚に襲われる。足元がふらつき、立っているのもままならなくなった。