指先から溢れる、隠れた本能。
「青井、さん……」
声にならない声を漏らすと、私の体がぐらりと傾いた。咄嗟に蒼空が私の腕を支え、そっと椅子に座らせてくれた。温かい手の感触が、私の震える体に伝わる。
「大丈夫か?」
蒼空の声は落ち着いていたが、その目にはどこか鋭い光が宿っていた。私の体は、知らず知らずのうちに彼の存在に反応を強めていた。胸の鼓動が速くなり、皮膚が熱を持ち、まるで体の奥底から何かが呼び起こされるような感覚。蒼空の手の温もり、近くで聞こえる彼の落ち着いた息遣い──それらが、私の心をさらに揺さぶった。
蒼空は私の微細な変化に気づいているようだった。私が彼を見ると、視線が交錯し、彼の瞳にはただの同僚としての心配を超えた何かが宿っているように見えた。
私はまだ気づいていない──蒼空が『dom』であること、そしてこの偶然の出会いが、私の人生を大きく変えることになることを。
「落ち着いて……大丈夫だから」
蒼空はそう言いながら、私の腕をそっと握った。その手は優しく、しかしどこか確かな力強さを持っていた。私は彼の声に導かれるように、ゆっくりと呼吸を整えた。胸のざわめきが少しずつ収まり、代わりに不思議な安堵感が広がる。蒼空のそばにいるだけで、なぜか心が落ち着くのだ。
オフィスの窓から差し込む淡い夕陽が、私たちを黄金色に染めた。ガラスに反射する光が、まるで私たちの間に流れる見えない糸を照らし出すようだった。偶然の出会いと、抑制を超えた反応が、私の運命の始まりを静かに告げていた。