指先から溢れる、隠れた本能。
第三章:心と体の距離感


 《蒼空side》


 午後の陽光がオフィスの窓ガラスを通り抜け、柔らかく広がっている。デスクの上に淡い光の帯が落ち、書類の端に映る影がゆっくりと伸びていく。秋の空気はどこか澄んでいて、エアコンの微かな唸り音が静寂をわずかに破る。
 俺、青井蒼空は、資料に目を通すふりをして、目の端で彼女──村松六花の姿を捉えていた。

 彼女はいつも通り書類整理に取り掛かっている。細く長いまつげが光に透け、頬に落ちる影が柔らかく揺れる。書類をめくる指先が、ほんの少し震えているのがわかる。
 彼女の呼吸が、普段よりわずかに速いことにも気づいてしまう。こんな細かな変化に目がいくのは、きっと俺の「dom」の性質が原因だ。だが、彼女にはそのことを知られたくない。いや、知られるわけにはいかない。


 (……抑えなくては。この距離で、こんな反応は危険すぎる)



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