指先から溢れる、隠れた本能。
心の中で自分を戒める。手を伸ばせば届く距離。声をかければ、彼女の瞳がこちらを向くかもしれない。そんな想像だけで、胸の奥が熱くなる。
普段は抑制剤で感情も衝動も完全にコントロールできているはずだ。だが、彼女のそばにいると、薬の効果が薄れるような感覚がある。
まるで彼女の存在が、俺の奥底に眠る本能を呼び起こしているかのように。
前回の接触の記憶が、頭から離れない。
あの瞬間──俺の指先が彼女の肩に触れた一瞬の熱、彼女の瞳に宿ったかすかな動揺、低く響く俺の声に反応した彼女の小さな息遣い。
あの時の彼女の反応が、俺の心を早鐘のように打ち、体の奥に抑えきれないざわめきを呼び起こしていた。抑制剤を飲んでいるのに、だ。
(彼女のそばにいるだけで、こんなにも揺さぶられるなんて……)
俺は資料に視線を落とし、平静を装う。だが、心の中では微細な欲望が芽生えている。彼女を守りたいという思いと、抑えきれない衝動がせめぎ合う。
俺が「dom」であることは、誰にも知られていない。会社でも、親しい友人にも、ずっと隠してきた。抑制剤のおかげで、普段はこんな感情に振り回されることはない。だが、六花の存在は、その全てを揺さぶる。彼女の細かな仕草──髪を耳にかける動作、書類を握る手に力が入る様子、かすかに上気した頬──それらが、俺の理性を試すように響いてくる。
六花は、自分の体の変化に戸惑っているようだ。彼女の呼吸の揺れ、肩の微かな震え、瞳に宿るかすかな動揺。それらが、俺の心に小さな波紋を広げる。
彼女がまだ「sub」の性質を完全に受け入れていないことは、なんとなくわかる。医師から告げられた言葉を、彼女自身まだ信じきれていないのかもしれない。それでも、彼女のそばにいると、俺の「dom」の本能が抑えきれなくなる。彼女を守りたいという思いと、彼女をこの腕に閉じ込めたいという衝動が、頭の中でせめぎ合う。