指先から溢れる、隠れた本能。
その気持ちは、ただの緊張や驚きを超えたものだった。心地よさと戸惑いが同時に押し寄せて、体の感覚が異様に鋭くなる。無意識に机の角を握ると、爪が木の表面に軽く食い込む。
呼吸を整えようとするけど、蒼空さんの気配が空気を重くして、心をさらに揺さぶる。彼の穏やかな視線に触れるたびに、胸のざわつきが一瞬だけ和らぐ。不思議な温かさが広がるけど、その温かさは、同時に新たな混乱を呼び起こす。
蒼空さんは、書類に視線を落としているけど、時折、目の端で私を見ている気がする。
その視線を感じるたびに、心臓がまた跳ねる。彼が近くに立つだけで、空気が変わる。まるで、目に見えない糸が私たちを結んで、静かに引き寄せているみたいだ。私は、自分の心と体の反応に戸惑いながらも、蒼空さんのそばにいることで感じる安心感を否定できない。指先は、書類を握る手に力を込めて、かすかに震えていた。
(……蒼空さんがそばにいると、安心するのに、なんでこんなに緊張するんだろう?)
その矛盾した気持ちに、自分でも答えが出せない。
私はまだ、自分の「sub」の性質を完全に理解できていない。医者の言葉を信じきれていないし、こんな風に誰かに心を揺さぶられるなんて、想像もしていなかった。
でも、蒼空さんの声や視線、穏やかな物腰が、私の心を静かに、だけど強く揺さぶっていることだけは確かだ。
夕陽がオフィスのガラスに反射して、淡いオレンジの光が私たちの間に揺れる。
書類やデスクを淡く染め、空気に微かな熱を宿らせる。
蒼空さんの柔らかな「おねがい」の声が、耳に残って離れない。まるで、運命の糸が光に照らされて、ゆっくりと絡み合う瞬間を予感させるみたいに。