指先から溢れる、隠れた本能。
健康診断会場は、会社のビルの一角に設けられた仮設のスペースだった。白いパーテーションで仕切られた簡素な部屋には、消毒液の匂いが漂い、蛍光灯の冷たい光が無機質に空間を満たしている。受付で名前を告げ、渡された番号札を手に、私は待合スペースのプラスチック製の椅子に腰を下ろした。窓の外では、通りを行き交う人々の足音や、遠くで響く車のエンジン音が、普段なら気にも留めない雑音として耳に飛び込んでくる。だが今日に限って、それらの音はまるで心のざわめきを増幅するように、妙に大きく響いていた。
スマートフォンを手に取り、時間を確認する。まだ私の順番まで少し間がある。窓の外に目を向けると、ビルの隙間から見える空は、薄い雲に覆われ、どこか頼りなげな青を湛えている。
通りを歩く人々は皆、忙しそうに、あるいは無表情に、それぞれの目的地へと急いでいた。そんな日常の光景を眺めながら、私の心はどこか現実から浮遊しているような感覚に囚われた。健康診断なんて、ただのルーチンのはずだ。
なのに、なぜこんなに落ち着かないのだろうか。