指先から溢れる、隠れた本能。



 「んっ……あぁっ」

 
互いの体を重ねたまま、私たちはやっと落ち着きを取り戻していく。
 蒼空さんは私をそっと抱き寄せ、髪を優しく撫でてくれた。彼の温もりと香りが、胸の奥に深い愛情と安心感を呼び起こす。
 昨夜、私の処女を奪ったことへの責任感と、私との深い繋がりを喜ぶ気持ちが、彼の瞳に宿っている気がした。蒼空さんはポケットから小さな紙を取り出す。そこには【契約書】と書かれた、シンプルだが重みのある書類があった。

 『dom』と『sub』の関係を正式に結ぶためのもの──それは、単なる形式を超えた、私たちの心を結ぶ約束の証だった。


 「幸せにするから……俺と、契約してほしい」


 その言葉に、心が震えた。蒼空さんの瞳には真剣さと温かさが宿っていて、私の心を強く揺さぶった。
 私はまだ、自分の『sub』の性質を完全に理解していなかった。でも、蒼空さんのそばにいると感じる安心感と愛情が、私の心を満たしていた。ゆっくりと微笑み、信頼と愛情を胸に、私は小さく頷いた。


 「はい……蒼空さんとなら……」


 その言葉は、まるで二人の心を結ぶ鍵のようだった。朝日が資料室を淡く照らし、書棚に積まれた書類の影が揺れる。私たちの間に流れる温かな空気が、愛と契約の絆でしっかりと結ばれた瞬間を祝福しているようだった。窓の外では、朝の街が静かに目覚め、鳥のさえずりが遠くに響いていた。



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