指先から溢れる、隠れた本能。



 午後の仕事が始まり、書類に集中しようとしたけど、蒼空さんの存在が近くにあるだけで、心が揺れてしまう。
 彼がデスクの向こうで資料に目を通す姿、ペンを握る手の動き、時折こちらを向く視線──それらが、私の意識を無意識に引き寄せる。

 私はまだ、自分の『sub』の性質を完全に理解できていない。医師から告げられた言葉も、どこか現実感のないものとして頭の片隅に押しやっていた。でも、蒼空さんのそばにいると、心の奥で「この人に全てを預けたい」という思いが、抑えきれずに湧き上がってくる。

 蒼空さんも、私の細かな仕草に意識を向けているのがわかる。書類をめくる私の手の動き、かすかに震える吐息、肩の微かな揺れ──彼の視線がそれらを捉えるたびに、空気が少し重くなる。


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