指先から溢れる、隠れた本能。
触れ合わなくても、私たちの間に流れる心理的な距離が、ゆっくりと、でも確実に縮まっていくのを感じる。
「……蒼空さん、こうして日常で一緒にいられるだけで、なんだか安心します」
私は素直に心の内を口にした。自分でも驚くほど、言葉が自然に溢れていた。蒼空さんは私の声に耳を傾け、胸の奥で何かを感じているようだった。彼は軽く微笑み、穏やかな声で答えた。
「俺もだ、六花。契約とか関係なく、こうして隣にいられる時間が、何よりも大事だと思う」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。蒼空さんの声は、まるで私の心を包み込むように響き、安心感と愛情がじんわりと広がる。午後の柔らかな光の中、私たちは資料室で向かい合い、手のひらを軽く重ねながら静かに微笑み合った。
あの夜の濃密な甘さは心の奥に深く刻まれているけど、今はこの穏やかな時間──互いの存在を確かめ合う時間が、私にとって何よりも大切だった。
資料室を出るとき、私は小さく蒼空さんの肩に寄り添った。彼も自然に私の歩調に合わせて歩いてくれる。外の空気に触れると、オフィスの喧騒が遠くに聞こえ、日常の現実が戻ってくる。でも、蒼空さんの隣にいるだけで、心は穏やかで、どこか甘い気持ちで満たされていた。