指先から溢れる、隠れた本能。
最終章:罪悪感と2人の関係


 朝のオフィスは、柔らかな陽光に包まれていた。窓から差し込む光が、書類やデスクに淡い影を落とし、エアコンの微かな唸り音が静寂を埋める。
 いつものようにデスクに向かいながら、私は胸の奥で温かなざわめきを感じていた。

 あの資料室での夜から数週間が過ぎ、蒼空さんとの関係は、日常の中で静かに、しかし確実に深まっていた。心のどこかで、彼との絆が私の全てを変えたことを実感している。


(蒼空さん……今でも、そばにいるだけで心がこんなに温かくなる)


廊下ですれ違うとき、蒼空さんの視線が私を捉えると、胸の奥がじんわりと熱くなる。彼の微笑みは、いつもより柔らかく、どこか安心感を与えてくれていた。

 私は笑顔で挨拶を返すけど、頬が少し熱くなるのを感じる。あの日、蒼空さんの罪悪感と葛藤を知ったとき、私は彼の心の奥にある愛情を強く感じた。それ以来、私たちの間には、言葉を超えた信頼が根付いていた。

 昼休み、資料室に二人きりになった瞬間、私はソファの端に腰を下ろした。古びた革の感触が、微かな軋みを上げ、埃の匂いがほのかに漂う。この場所は、私たちにとって特別な思い出の場所だ。蒼空さんがそっと隣に座り、静かに私の手を取った。その温もりに、心臓が小さく跳ねる。


「六花、最近、落ち着いてるな」


蒼空さんの声は低く、優しかった。私は彼の瞳を見つめ、微笑んだ。


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