【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
『今日は早く帰れる? また会いたいな♡』

 けれど、わずか数秒後には『メッセージの送信を取り消しました』という文字が表示され、文章は消えてしまった。

(なに……今の……?)

 ドクン、ドクンと鼓動が早まっていく。
 まさか、誰か他の女性に送るはずだったメッセージ……?
 いや、そんな、そんなはず……。でも、あの♡マークは何?
 見間違いじゃない……でも、証拠はもうない。
「外せない用事」って……そういうことなの……?
 
 手が震えそうになるのを、両手でスマホを握り締めて押しとどめた。
 いけない、こんなの、気にしすぎかもしれない。
 胸の奥に小さな棘のような不安が、じくじくと刺さっていくような感覚だった。

(だめだ、落ち着こう……)

 目を閉じて、深呼吸する。
 この空白時間を、何かで気を紛らせなければ余計なことを考えてしまいそうだった。
 お掃除をしようと思ったが、する必要もないくらい綺麗だ。

「……そうだ」

 私は、ダイニングテーブルにノートパソコンを置く。

「これ……。続き書いてみようかな……」

 社会人になってから、ずっと放置してあった、書きかけの小説。
 安浦先生にお会いしたら、なんだか久しぶりに書きたくなった。
 洗濯が終わるまで、あと35分。私は、集中して文字を入力し始めた。
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