【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 出社してからは、社長室のパソコンで裕貴……社長のスケジュールチェック。
 今日は午前中に会議、午後から来客、夕方は営業と一緒に外回り、そのまま直帰……と。
 まったく、自分で手帳に書き込めばいいのに、と思うけど、それができないから私を秘書として雇ったのよね。
 
 こんなことで社長が務まるのかしら、と最初は思った。
 だけど、不思議なことに社員からの信頼は厚い。些細な労いの言葉を忘れず、空気を和ませるのが上手いのだ。それに、編集者時代は安浦先生に気に入られていたらしい。
 
「この来客は、私も同席した方がいいですか?」
「いや、それはいい。おまえは安浦先生のお世話に専念して。あの方は、我が社にとって重要な作家先生だからな」
「わかりました。では、そうします」
 
 早速、外出しようと席を立つと、スッと裕貴が目の前に立った。

「……しのぶ。二人きりの時は、別に敬語じゃなくてもいいんだぞ?」

 耳元で囁くように、甘い声をかけてきた。
 急にどうしたのかしら?
 
「私は、それほど器用ではないので。会社にいる間は敬語で、社長と呼ばせていただきます。それに、公私混同してしまったら、家庭の不満もここで言ってしまいそうで」
 
 意地悪く笑って、裕貴のネクタイを直しながら言う。

「うっ……。悪かったよ……」
「謝罪の言葉よりも、行動してみせてくださいね。あ……そういえば」

 ふと思い出すように切り出した。
 
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