マリオネット
「凪。今ね、翔太郎と偶然会ったの。会社の近くで。それで話しかけられて、私に話があるんだって」

<えっ!?>

「ご飯に誘われたけど、軽くお茶して帰るだけだから。盗聴器のこと、私もあいつに聞きたいし……。帰るの、もう少し遅くなりそう。凪には、秘密とか隠し事とかしたくないから、喫茶店に入る前に電話をしたの」

 凪はしばらく無言だった。

<そっか。ちゃんと話してくれてありがとう。俺、心配だから近くまで迎えに行くよ。陽菜乃さんに何かあったら困る>

「大丈夫だよ。喫茶店だから」

<ダメ、もう彼氏だから遠慮しないよ。どこにいるの?>

「えっと、駅前のルルーノ珈琲かな」

<わかった。俺が着く前に話が終ったら連絡して>

「うん」

 電話を切って、翔太郎が待っているはずの喫茶店に向かう。彼は、窓際の席に座っていた。

「電話終わった?」

「うん」

「陽菜、何飲む?いつものやつでいい?」

 いつものやつって、覚えてるの?

「自分で頼むからいいよ」
 店員さんを呼び、注文をした。

「陽菜って、いつも同じやつしか頼まないよな。たまには違うものでも頼めばいいのに……」

 翔太郎はそう言って笑っている。
 もし……。
 普通に円満に別れていたら、こういう会話も懐かしく感じるのだろうか。

 覚えていてくれて嬉しいって気持ちになるのかな。
 今の私には、彼の言葉は何も響かない。
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