ひまわりみたいなあなたにもう一度恋をする~再会したのは元不良の同級生~

『どうしました?』

 もしやと思い中国語で話しかけてみたところ、女性がホッとしたように息を吐いた。

『トイレの場所がわからなくて……』
『トイレはあっちの建物ですよ』
『ありがとう!』

 女性はお礼を言うと男の子を連れて、美織が指さした事務所の方へ歩いていった。
 美織の予想通り、中国からきた観光客のようだ。
 大きな観光地では中国語の看板や案内図も整備されているが、地方の観光地では日本語の表記しかない場所も多い。

(力になれてよかった)

 ベンチに戻ると、正宗は待ちかねていたように尋ねた。

「ずいぶんと流暢に話せるんだな」
「前の会社に(よう)さんっていう中国人の女の子が働いていて、その子に教えてもらったの」

 美織よりも五歳年下だったが、日本のアニメが好きで来日を決意するほどのバイタリティがあった。美織とは互いに母国語を教え合った仲だ。
 前の会社が倒産し、就職先がバラバラになってからも彼女とは連絡を取り続けている。

「すごいよ、錦は」
「もうっ。そんなに褒めないでよ」

 美織は恥ずかしさのあまり、お弁当を食べる振りをして目を伏せた。
 同期会のときに阿久津から、正宗が海外事業部のエースと呼ばれていると聞いた。どんなに難しい交渉の場でも一歩も条件を引かない姿勢は、上司からの信頼も得ているらしい。
 そんな彼に手放しで褒められると、なんだかこそばゆい。
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