黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「それじゃあ、俺も入って来る」

 入浴を終えた私と入れ替わりで、光毅さんも浴室に向かう。

 とりあえず、リビングスペースのソファーに腰を下ろした。少し浅めに座ったのは、背後のベッドルームを意識して再び緊張が高まったせいだ。

 でも、さすがに今日はたくさん歩いて疲れている。ソファーの端にそっと体を預けると、勝手に瞼が下りてきた。

「依都。こんなところで寝るな」

「……ん」

 軽く肩を揺すられて、意識が浮上する。

「男とふたりでホテルにいるっていうのに。呑気だな、依都」

 耳に届いた不穏な言葉に、薄らと瞼を開ける。
 私の目の前にずいっと顔を近づけてきた光毅さんに、ピキリと体が固まった。何事かと動揺しつつ、少しでも動けばお互いの唇が触れてしまいそうで身動きがとれない。

「風邪ひくぞ」

 どうやらソファーで眠っていたらしい。
 距離を取りたいのに、動けない。

 困っていたところで、ようやく光毅さんが離れてくれてほっとする。

 でも次の瞬間には体がふわりと浮いて、途端に不安定になる。慌てて腕を伸ばし、縋りついたのは光毅さんの首もとだった。

「積極的だな」

 ふたりの顔は、再び至近距離にある。
 どうやら抱き上げられたようだ。驚いて手を離そうと身じろいだせいで、体がぐらりと揺れる。

「しっかり捕まってろ」

 動けば動くほど、不利な状況になりそうだ。
 あきらめてされるがままでいるが、恥ずかしさに耐えかねて瞼をぎゅっと閉じた。
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