黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 それからも、光毅さんは私をいろいろな場所へ連れ出した。

 彼が仕事で関わった場所へ行けば、たくさん声をかけられる。中には、キッチンカーの店主のように丁寧なお礼を言う人もいた。

 自分のことを知ってほしいと言われたからには、彼の悪い面も暴いていこうと密かに意気込んでいたけれど、それがまったく見えてこない。

 強いて言えば、私に意地悪なところくらいだ。それだって恥ずかしい思いをさせられるだけで、傷つけられたり貶されたりするなんて絶対にない。

 私との結婚の際に彼のあくどい一面を知った上に、他人からの悪評も見聞きしていただけに拍子抜けした。

 彼の評判と共に聞こえてきたのは、楢村さんの存在だ。

『ずっとついていた秘書の方は、異動されたんですか?』

『あの方にもいつも気にかけてもらって、感謝しているんです』

 あくまで仕事上の話だ。親密さを感じさせるような内容ではない。

 でもふたりそれほど長い時間を一緒に過ごしてきたのだと突き付けられるようで、胸が苦しくなる。

 最初から楢村さんとの関係は把握していた。ふたりがどうしていようが、かまわないはずだった。
 それなのに今は、事実を知りたくなかったと思ってしまう。疑惑のままの方が、よっぽどよかった。

 打算で結婚を持ち掛けてくる光毅さんなんて、絶対に好きにならない。そう最初に自分に誓っていたはずなのに、甘く私を翻弄する彼がすっかり気になる存在になっている。

 甘い声音で名前を呼ばれたら胸が高鳴り、熱く見つめられると鼓動が速くなる。くっつかれるのが恥ずかしくてたまらないのに、その温もりに安心感を抱くようになってしまった。

〝気になる存在〟が〝そばにいてほしい人〟に変わったのは、どのタイミングだったのか。
 困惑したまま、彼への好意が勝手に大きくなっていく。
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