黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
糸貫庵を取り巻く周辺の状況は、着々と話が進められている。
結婚してしばらくした頃に、糸貫庵が四月いっぱいでの閉館が決まったと、光毅さんから告げられていた。
それがあと一カ月後に迫った今日、彼が私に誘いかけてきた。
「閉館になる前に、依都も見に行くか? 実家に一度も帰ってないだろ?」
光毅さんは、自由に過ごしていいといわれている。でも今後の話し合いに顔を出したのを最後に、私は一度も実家を訪れていない。
気にならないわけではないけれど、いくら身内とはいえ退職した人間が顔を出すべきではないと思っている。それに結婚したばかりなのに頻繁に実家に帰っていては、祖父母に心配させかねない。
「いいの?」
今回の工事で実家も取り壊しになるから、名残惜しくないと言ったら嘘になる。
「いいもなにも、依都だって気になっていただろ? この案件はもう俺自身の手を離れているから、視察としてでなく一緒に帰省をしようか」
温泉街に足しげく通っていた光毅さんだが、予定していた範囲の買収に目途が立った時点で徐々に部下に任せている。
「行きたい」
そう答えた私に、光毅さんが目を細めた。
「それじゃあ、今週末は依都の実家へ行っこう」
こういう優しさが、彼を嫌いにさせてくれない。その気遣いがうれしい半面、少しだけ胸が苦しくなった。
結婚してしばらくした頃に、糸貫庵が四月いっぱいでの閉館が決まったと、光毅さんから告げられていた。
それがあと一カ月後に迫った今日、彼が私に誘いかけてきた。
「閉館になる前に、依都も見に行くか? 実家に一度も帰ってないだろ?」
光毅さんは、自由に過ごしていいといわれている。でも今後の話し合いに顔を出したのを最後に、私は一度も実家を訪れていない。
気にならないわけではないけれど、いくら身内とはいえ退職した人間が顔を出すべきではないと思っている。それに結婚したばかりなのに頻繁に実家に帰っていては、祖父母に心配させかねない。
「いいの?」
今回の工事で実家も取り壊しになるから、名残惜しくないと言ったら嘘になる。
「いいもなにも、依都だって気になっていただろ? この案件はもう俺自身の手を離れているから、視察としてでなく一緒に帰省をしようか」
温泉街に足しげく通っていた光毅さんだが、予定していた範囲の買収に目途が立った時点で徐々に部下に任せている。
「行きたい」
そう答えた私に、光毅さんが目を細めた。
「それじゃあ、今週末は依都の実家へ行っこう」
こういう優しさが、彼を嫌いにさせてくれない。その気遣いがうれしい半面、少しだけ胸が苦しくなった。