黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「仕事ではないと言っておきながら悪いが、建設現場を少し見ておきたい。依都は先に実家へ行ってるか?」
見慣れた市街地を抜けたところで、光毅さんが尋ねてくる。
せっかくここまで来たのだし、光毅さんとしても気になるのだろう。
「ううん。私も見たい」
現場を目にしても、会社を辞めて帰ってきたときのような暗い気持ちにはならないだろう。
彼につれられるまま、再開発の成功例をいくつか見てきた。そこで今も働き続ける人の姿に、故郷が故郷でなくなってしまうという漠然とした不安はもうない。
温泉街が近づき、建設中の建物が見えてくる。当然ながら前よりも建物の背が高くなり、全容がはっきりとしていた。
「依都は、俺を恨んでいるか?」
窓の外をじっと見つめていた私に、光毅さんが静かな口調で尋ねてくる。
そんなことを聞かれるのは意外で、どうしたのかとチラリと隣を見た。
ハンドルを握る光毅さんにとくに変わったところはなく、じっと前を見すえたままだ。
「ううん。むしろ、糸貫庵を残してくれて感謝してる。それに、由奈と大和もまた旅館で働けるし」
視線を正面に戻し、素直な気持ちを伝える。
「……ああ。幼馴染の彼ね」
そう言った光毅さんの声音はわずかに低く、気になって再び隣を見る。けれど、やっぱり彼の様子に変化はなかった。
車を降りて、建設現場に近づく。
工事は急ピッチで進められているようで、週末の今日もフル稼働している。
「あの辺りには、誰でも利用できる足湯を作る予定だ」
彼の話に耳を傾けながら、以前見せてもらった完成予想図を思い描く。
再開発にはずっと反対していたはずなのに、彼が真摯な表情で未来を語ると楽しみに思えてくるから不思議だ。この人と結婚していなければ、きっとこんな気持ちにはなっていなかった。
「オープンしたら、遊びに来てみたいなあ」
無意識にそんな言葉が口を突いてでる。
「ああ。ふたりで旅行に来よう」
それが夫婦で行く最後の旅行になるのだろうかと、せつなさに胸が絞めつけられる。笑顔が保てそうになくて、彼に見られないように周囲を見回すふりをした。
見慣れた市街地を抜けたところで、光毅さんが尋ねてくる。
せっかくここまで来たのだし、光毅さんとしても気になるのだろう。
「ううん。私も見たい」
現場を目にしても、会社を辞めて帰ってきたときのような暗い気持ちにはならないだろう。
彼につれられるまま、再開発の成功例をいくつか見てきた。そこで今も働き続ける人の姿に、故郷が故郷でなくなってしまうという漠然とした不安はもうない。
温泉街が近づき、建設中の建物が見えてくる。当然ながら前よりも建物の背が高くなり、全容がはっきりとしていた。
「依都は、俺を恨んでいるか?」
窓の外をじっと見つめていた私に、光毅さんが静かな口調で尋ねてくる。
そんなことを聞かれるのは意外で、どうしたのかとチラリと隣を見た。
ハンドルを握る光毅さんにとくに変わったところはなく、じっと前を見すえたままだ。
「ううん。むしろ、糸貫庵を残してくれて感謝してる。それに、由奈と大和もまた旅館で働けるし」
視線を正面に戻し、素直な気持ちを伝える。
「……ああ。幼馴染の彼ね」
そう言った光毅さんの声音はわずかに低く、気になって再び隣を見る。けれど、やっぱり彼の様子に変化はなかった。
車を降りて、建設現場に近づく。
工事は急ピッチで進められているようで、週末の今日もフル稼働している。
「あの辺りには、誰でも利用できる足湯を作る予定だ」
彼の話に耳を傾けながら、以前見せてもらった完成予想図を思い描く。
再開発にはずっと反対していたはずなのに、彼が真摯な表情で未来を語ると楽しみに思えてくるから不思議だ。この人と結婚していなければ、きっとこんな気持ちにはなっていなかった。
「オープンしたら、遊びに来てみたいなあ」
無意識にそんな言葉が口を突いてでる。
「ああ。ふたりで旅行に来よう」
それが夫婦で行く最後の旅行になるのだろうかと、せつなさに胸が絞めつけられる。笑顔が保てそうになくて、彼に見られないように周囲を見回すふりをした。