黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「お姉ちゃんは、普段どう過ごしてるの?」

 光毅さんが不在の平日には、もっと着物の勉強がしたいとあらためて教室に通うようになった。

 ただ、せっかく着物を着ても披露する場がないのはなんだか残念な気もする。そこで祖母が嗜んでいた茶道が気になり、こちらも入会を決めた。

 離婚後はこれらの経験を生かした仕事に就きたいと、密かに思っている。

 そんな私の日常を話すと、由奈は安心したような笑みを見せた。

「お姉ちゃんは着物が大好きで、就職先も呉服屋だったでしょ? それなのに、せっかく入った会社をあっさり辞めてきちゃうから、後悔していないのかって気にしてたんだよ。でも、今でも好きなことを続けられているのならよかった。それもこれも、お義兄さんのおかげね」

 彼が私を自由にさせてくれているのは事実だ。費用は自分で賄うと言うのに、光毅さんがすべて負担してくれる。

 とはいえ、なんでもかんでも光毅さんのおかげだとつなげることはやめてほしい。まるで私が、彼に本当に大切にされているように聞こえてしまう。

「いろいろと手放してでも俺の想いに応えてくれた依都には、せめて好きなように過ごしてほしいんだ」

 彼が私に優しい笑みを向けてくるから、気恥ずかしくなって視線を彷徨わせた。

 同時に、この人の本音を知っているとか、いずれ離婚を切りだす気でいることに苦しくなる。

 祖父母はもちろん、私たちの結婚を手放しで喜んでくれている由奈にも、この結婚の本当の意味は絶対に明かさないと決めている。
 今だけは幸せに見えるように振る舞わないといけないのに、そう心がけるほど胸が絞めつけられていった。
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