黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「依都?」

 あのときのことを思い出していたところで。背後から声をかけられて振り返る。

「大和!」

 久々に会えてよかったと声をあげた私に反して、彼はくしゃりと顔をゆがませた。

「どうかした?」

「依都、お前……」

 苦悩の滲む彼に、なにかあったのかと心配になる。
 けれど近づこうとした私に、大和が鋭い視線を向けくるから動きを止めた。

「なんで……なんで結婚なんてひとりで決めてんだよ」

「え?」

「どうして俺に相談してくれなかったんだ。依都はいつもそうだ」

 怒っている?
 言葉を絞り出す大和に、戸惑いを隠せない。

「いつも姉ぶって、俺を弟扱いする。そんなに俺は頼りないのか?」

 意味が分からず首を傾げる。
 けれどこれだけは伝えたく、なんとか口を開いた。

「大和のことは、いつも頼りにしているよ」

「なら、ひとりで犠牲になるなんて決めるなよ」

「なんのこと?」

「表面上は好きだとかなんとか言われたらしいけど、本当は糸貫庵を守ることを引き換えに結婚したんだろ?」

 責めるような大和に、ギクリとする。
 でも、それを表に出すわけにはいかない。

「ち、違うから」

 大和が私に近づく。彼の真剣な目に、身動きが取れなくなった。

「依都」

 いつものような茶化した様子はない。
 大和が私の知らない大人の男性になってしまったようで、どうしていいのかわからなくなる。

「俺は、ずっと依都が……」
< 114 / 178 >

この作品をシェア

pagetop