黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「依都!」

 大和の雰囲気にのまれかけていたところに、別の声に呼ばれてハッとする。

「依都、待たせた」

 早足で近づいてきたのは光毅さんだ。

 彼の姿を認めると、大和は悔しそうな顔をしながら私から一歩離れた。

「ああ、依都の幼馴染の。妻の相手をしてくれたようですね」

 大和はひと言も発しないまま、光毅さんに鋭い視線を向けている。いったいどうしたのかと、大和の方に一歩踏み出そうとした私の手を、光毅さんが掴んで引き寄せた。

「ほら、依都。支配人たちが顔を見せてほしいと、正面玄関で待ってるから行くよ」

 傾いた体を、光毅さんが受け止めてくれる。

 こんな中途半端なまま大和と別れたくなくて、慌てて彼の方を見た。

「大和。旅館を支えてくれてありがとう」

 リニューアル後も務めてくれる彼には感謝しかない。
 今後の身の振りも決まっているとはいえ、一旦ほかのお店で勤めるのはさすがの彼も不安があるのだろうか。

「また、来るから」

「……ああ」

 いつもの笑顔のない彼に、寂しくなる。
 けれどようやくそう返してくれたことにひとまず安堵しながら、光毅さんに連れられるまま足進めた。


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