黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 六月も二週目に入り、梅雨の晴れ間に光毅さんはイギリス向けて旅立った。

 イギリス行きの自分の荷物をまとめながら、考えに耽る。
 糸貫庵の閉館が重くのしかかっていた私だけど、光毅さんにかまわれているうちにすっかり気持ちは落ち着いている。
 思い出の詰まった実家は、残念ながら取り壊すと決まっている。

 祖父母と由奈は、市街地にある祖母の実家が所有する空き家に移っている。祖父母は仕事から完全に手を引いており、今後はそこで暮らしていく予定だ。

 最後に微妙な別れ方をした大和は、すでに都心の料亭で働いているらしい。残念ながらあれからも連絡はなく、由奈伝いの情報だ。
 こちらから声をかけようにも、どんな調子でなにを言えばいいのかわからない。そうこうしているうちに時間だけが過ぎていき、ますます連絡しづらくなってしまった。心残りではあるけれど、今は時間を置いた方がいいのだろうと感じている。

「よし! ちゃんと閉められた」

 いろいろと荷物が増えてしまいき、キャリーバッグはもうパンパンだ。
 私にとってはどれも必要なものばかりでも、光毅さんが見たら「なにをそんなに持ってきたんだ?」と呆れられそう。その表情を容易に想像できてしまい、やっと閉められたキャリーバッグを見て苦笑する。

 明日の便で、光毅さんの後追ってイギリスへ向かう。
 彼から見たら私はいかにも頼りなかったようで、マンションから空港まではタクシーを手配すると言われている。さらに私に海外へ行った経験がないと知った彼は、動画で示しながら飛行機の乗り方までレクチャーしてくれた。過保護だと思わなくもないが、不安もあったから助かった。

 荷物はもうばっちりだし、飛行機の乗り方も復讐した。

「大丈夫そうかな」

 少し早いけれど寝てしまおうと、早々にベッドにもぐりこんだ。


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