黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 扉が閉まるのを見届けて、ベッドのふちに腰を下ろした。

 おそらく彼は、私から提示したお互いにもっと知り合ってから関係を進めようという条件が、言葉通りでないと気づいているのだと思う。本当の夫婦関係を築くことに、私が躊躇するなにかがあることにも。

 糸貫庵の再出発を見届けるまで子どもを作る行為をしないというおかしな条件を、光毅さんはすんなり受け入れた。

 私が彼との間に一線を引く理由を尋ねないのは、光毅さんにとってもこの結婚は上辺だけの関係だと思っているからなのだろう。むしろ私の提案は、彼にとって好都合だったのかもしれない。

 自分から距離を取るようなお願いしたにもかかわらず、胸がチクリと痛む。

 光毅さんが好き。
 
 彼にとっては迷惑にしかならないこの気持ちを、明かせるはずがない。

 宇和島リゾートにとって残る彼の目的は、地元での彼や会社の印象をよくすること。そのあたりは、由奈の話を聞く限り狙い通りになっていそうだ。

 これから宇和島リゾートが請け負うだろうほかの地域での事業も見すえて、関係性のよさを広めたい。そのために彼は私との仲を良好に見せる必要があるし、すぐに別れることもできない。

 意に添わない結婚をして、想いもない私をいかにも本物の妻のように扱わなければならない。そんな光毅さんを、かわいそうな人だなと他人事のように思う。そうしていなければ、自分だけが被害者のように感じてしまいそうだ。

 ため息をつきながら立ち上がる。それからキャリーバッグに詰め込んできた服を、ハンガーにかけていった。
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