黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 夕飯は部屋で食べようと言われているから、楽な服装に着替えた。

 落ち着いたところで、光毅さんの待つリビングへと戻る。

「なにが食べたい?」

「軽くで、いいかな」

「了解」

 曖昧な返しになったが、光毅さんは快く返してくれた。

 しばらくして運ばれてきたのは、パスタをメインにスープとサラダだ。これなら無理なく食べられそうだと、彼にお礼を伝える。

 私たちは夫婦になったとはいえ一緒に過ごした時間は短くて、まだまだお互いを深く知らない。それでも私のアバウトな要望を的確に掴めるのは、それだけ彼が周囲をよく見ているからだろうか。

 私だけを見てほしいだなんていう望みは、抱いてはいけない。彼にとってこの生活は、仕事のひとつにすぎないのだから。

 食事と入浴を済ませて、ベッドにもぐり込む。
 後からやってきた光毅さんも、そっと隣に入ってきた。

「おやすみ、依都」

 私を胸もとに抱き寄せ、髪に口づけてくる。

 お風呂を上がったばかりの彼は私よりも体温が高くて、その温もりに不覚にも安堵する。

「おやすみなさい」

 この体勢にも、もう文句は言わない。私自身が、こうしてほしいと望んでいる。

 彼の腕の中にいていいのは私ではない。それがたまらなく苦しいけれど、許される立場にある今だけはこのままでいさせてほしいと、祈るような気持ちで瞼を閉じた。


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