黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 翌朝、光毅さんの腕の中で目を覚ました。
 彼はいつから起きていたのか、パチッと目が合う。


「おはよう、依都」

「お、おはよう、ございます」

 何度体験しても慣れない距離に、言葉がカタコトになる。
 寝起きの顔を間近に見られるなんて、恥ずかしすぎて顔を伏せた。

 そんな私を彼はぐっと抱き寄せて、髪に頬を擦りつけてくる。年上の彼に甘えられているようで、胸がキュンと疼いた。

「調子はどうだ?」

 尋ねられて、自分の体に意識を向ける。しっかり眠れていたし、とくに怠さは感じない。時差疲れは残っていないようだ。

「大丈夫。すぐにでも動きだせそう」

「よかった。依都はこっちで行きたいところはあるか?」

 体を離して、私の顔を覗き込んでくる。

 本当は、すぐにでもこの腕の中から抜け出したいくらい恥ずかしい。
 でも私がいくらもがいても逃れられないのは、これまでの経験でわかっている。それどころか、変に動けばよろしくない体勢になる恐れもある。外泊したときだけだから耐えようと、もうずっと前にあきらめた。

「ウィンザー城でしょ、それから映画の撮影地と……」

 イギリスまで来て、暗い気持ちを引きずっていたくない。先のことを今は考えなくてもいいと気持ちを切り替えて、明るい口調で調べておいた観光地を上げていく。

「依都らしい選択だな。全部連れて行ってやる」

 いかにも初心者な希望を、光毅さんは快く受け入れてくれる。それは彼の善意からなのか、それともどうでもいい相手をさらに気遣うのは時間の無駄だと思っているのか。

 そんな捻くれた考えは、浮かべた笑みの裏に隠しておいた。

「それじゃあ、起きようか」

 彼に促されて、早速出かける準備に取り掛かった。


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