黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 ホテルで朝食を済ませて、外へ向かう。

 パディントン駅から列車に乗り、ウィンザー城を目指す。乗り換えを挟んで一時間弱の旅になると、光毅さんが教えてくれた。

 列車を待ちながら、離れていた間の話を聞かれる。
 空港まで楢村さんが送り届けてくれた話もしようかと一瞬過ったが、微妙な空気になるのも嫌でやめておいた。

 光毅さんはイギリスで視察に訪れた先や、この駅の名前の由来など豆知識を聞かせてくれた。
 彼といるときに、会話に困るなんてこれまで一度もなかった。無言の時間ができても気まずさはなく、すっかり光毅さんの隣にいることが当たり前になっている。

 この関係を手放せるだろうか。そう思いながら隣を見上げると、視線が合った光毅さんはどうした?と目を細めた。

 物珍しさにきょろきょろしているうちに、列車は目的に地に到着した。下車するとすぐに、彼に手をつながれる。

「迷子になるぞ」

 意識があちこちに向いていたのは、気づかれていたらしい。
 また子ども扱いされてムッとしたが、それを訴えてもからかわれるだけだとぐっとのみ込んだ。

 六月のイギリスはようやく温かくなってくるころで、観光のベストシーズンだ。人でも多いため、ぼんやりしていれば本当にはぐれてしまう。悔しいけれど、手をつながられるのはたしかにありがたい。
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