黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 彼に促されて、店内に足を踏み入れた。
 すかさず近寄ってきた女性店員に、光毅さんが私の服を選びたいと告げる。彼女は身長が低いことを気にする私の意を汲んで、似合いそうなワンピースを何点か選び出してくれた。

「白も捨てがたい」

 淡いピンクのワンピースを試着した私を眺めながら、ひとつ前に着た白いワンピースと比べる。

 想像以上に高価なため身に着けるのが怖いくらいで、自分からどれがいいだなんて意見する心の余裕はない。ここは光毅さんに任せてしまおうと、私はひたすらマネキンに徹している。

「お客様は、こういう淡い色合いのものが本当によくお似合いですね」

 店員の言葉に、光毅さんもうなずく。
 そんなやりとりを何度か繰り返し、光毅さんはようやく二着に絞り込んだ。

「白か水色か。依都はどっちが気に入った?」

「えっと、水色かな」

 白は汚れが目立つからなんて、庶民的な考えを言えるような雰囲気にない。

「どれもよく似合っていたが、そうだな。当日は水色の方にしよう。白はまたほかの機会に着ればいい。この二着で」

 ようやく解放されるとほっとしたのも束の間。

「ちょっ、ちょっと」

 まさか二着とも買うとは思わず、慌てて止めにかかる。

 けれど静かな店内でそれ以上声をあげることはできず、代わりに視線で二着もいらないと光必死に訴えた。

「そうか、依都も気に入ってくれたならよかった」

 ニヤリと笑って、的外れなことを言いだした。その意地悪な笑みは、私の言い分が正確に伝わっていると物語っているから質が悪い。

「あとは、靴とバッグを……」

 うろたえる私をよそに、さらにまだ買おうとする。
 光毅さんの要望を受けて嬉々として商品を選び始めた店員を前に、文句は言えなかった。
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