黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
開会の時間が迫り、指定された席に座る。
集まった人の中には、よく見知った地元の人もいた。私のところからは離れているが、祖父母や妹の姿もある。こちらに気づいた由奈は、目が合うとにっこりとした。
「続きまして、宇和島リゾートの社長、宇和島光毅よりご挨拶を申し上げます」
いよいよだと、背筋を伸ばす。彼と共に立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。
大勢の人の前に立つ経験などほとんどなくて、足が小さく震える。私の様子がぎこちないと気づいたのか、和也さんがさりげなく背に手を添えてくれた。
軽く触れられているだけだというのに心強くて、励まされるように顔を上げる。
事前に教えられていた通り、立ち止まった彼の半歩後ろに控えた。
光毅さんの足を引っぱってはいけないと、姿勢をよくして控えめに周囲を見回す。震えこそ治まっているが、余裕はまったくない。
それに比べて、光毅さんは隙のない堂々とした態度でいる。こういう場にも慣れているのだろう。立っているだけで緊張しきっている私とは、まるで違う。
本当に、私がこの人の妻でいていいのか。いずれ別れるときがくるとはいえ、公の場で共にいる姿を見せては彼の欠点になるかもしれない。
それもまた結婚して以来ずっと抱えてきた不安で、こちらに向けられたたくさんの視線に怖くなってくる。
耐えきれなくて下を向きそうになったところで、話していた光毅さんの声音がわずかに和らいだ。
「私事になりますが、こちらで糸貫庵という旅館を営んでいた支配人の……」
〝糸貫庵〟というワードにハッとして、下がりかけていた視線を上げる。
「依都」
私のほうへ振り向きながら、マイクを切った状態で光毅さんが呼び掛けてきた。
「大丈夫だ。俺の隣で、いつものように笑ってくれないか?」
顔が強張っていたのだろう。
彼の私を気遣う様子に、しっかりしなければとワンピースの陰で手を握りしめた。
隣に立つように促されて、そっと前に出る。彼の大きな手が、さっきと同じように私の背中に添えられた。
「妻の依都です」
光毅さんが私を紹介すると、地元住民が固まって座っている辺りが小さく反応する。それに勇気づけられて、しっかりと前を見すえられた。
挨拶を終えて、ふたりそろって頭を下げる。
もとの席に戻ったときにはようやく落ち着きを取りもどし、冷静に周囲を見回せた。
集まった人の中には、よく見知った地元の人もいた。私のところからは離れているが、祖父母や妹の姿もある。こちらに気づいた由奈は、目が合うとにっこりとした。
「続きまして、宇和島リゾートの社長、宇和島光毅よりご挨拶を申し上げます」
いよいよだと、背筋を伸ばす。彼と共に立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。
大勢の人の前に立つ経験などほとんどなくて、足が小さく震える。私の様子がぎこちないと気づいたのか、和也さんがさりげなく背に手を添えてくれた。
軽く触れられているだけだというのに心強くて、励まされるように顔を上げる。
事前に教えられていた通り、立ち止まった彼の半歩後ろに控えた。
光毅さんの足を引っぱってはいけないと、姿勢をよくして控えめに周囲を見回す。震えこそ治まっているが、余裕はまったくない。
それに比べて、光毅さんは隙のない堂々とした態度でいる。こういう場にも慣れているのだろう。立っているだけで緊張しきっている私とは、まるで違う。
本当に、私がこの人の妻でいていいのか。いずれ別れるときがくるとはいえ、公の場で共にいる姿を見せては彼の欠点になるかもしれない。
それもまた結婚して以来ずっと抱えてきた不安で、こちらに向けられたたくさんの視線に怖くなってくる。
耐えきれなくて下を向きそうになったところで、話していた光毅さんの声音がわずかに和らいだ。
「私事になりますが、こちらで糸貫庵という旅館を営んでいた支配人の……」
〝糸貫庵〟というワードにハッとして、下がりかけていた視線を上げる。
「依都」
私のほうへ振り向きながら、マイクを切った状態で光毅さんが呼び掛けてきた。
「大丈夫だ。俺の隣で、いつものように笑ってくれないか?」
顔が強張っていたのだろう。
彼の私を気遣う様子に、しっかりしなければとワンピースの陰で手を握りしめた。
隣に立つように促されて、そっと前に出る。彼の大きな手が、さっきと同じように私の背中に添えられた。
「妻の依都です」
光毅さんが私を紹介すると、地元住民が固まって座っている辺りが小さく反応する。それに勇気づけられて、しっかりと前を見すえられた。
挨拶を終えて、ふたりそろって頭を下げる。
もとの席に戻ったときにはようやく落ち着きを取りもどし、冷静に周囲を見回せた。