黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 セレモニーが終わり、説明を受けた注意事項に従って各自が施設の見学へ動きだす。

 社長という立場にある以上、光毅さんは周囲からたくさん声をかけられる。彼が歩き始めると、周りも一緒になって動きだした。
 私に与えられた役割は、終始笑みを浮かべて彼について回ること。時折、光毅さんが振り返って感想を尋ねてくる。私はそれに、笑みを深めて無難に返した。

「依都、疲れただろう?」

 ある程度見て回ったところで、休憩を挟むことにした。今日は随所に休憩所が用意されており、そこにはお茶や水だけでなく、食べ歩きができる手軽な食事も用意されている。これはいずれこの辺りで売り出す予定のもので、今日の反応を更なる商品の改良に生かすのだという。

「ありがとう」

 冷たいお茶を差し出されて、早速口にする。たくさんの人に囲まれていた緊張で、すっかり喉はカラカラになっていた。

 さすがになにかを食べる心の余裕はあまりなかったが、私たちの立場を考慮してひとつくらいは口にする必要があるだろう。
 私の様子をうかがいつつ、光毅さんが串に刺さった焼き団子を手渡してくれた。

「これって」

 もしかしてとつぶやくと、光毅さんがうなずく。
 ひと口大の団子が三つ刺さったこれは、私が幼いころから好きだったものだ。

「ああ。以前も売られていたものだ。評判もいいから、リニューアル後も販売する予定でいる」

「そっか」

 ひと口頬張る。炭で焼いた香ばしさとたれの味が懐かしくて、自然と笑みが浮かんだ。
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