黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「俺にも頂戴」

 周囲には聞こえないよう、私に顔を寄せた彼が内緒話をするように強請る。

「え?」

 全員がこちらを見ているわけではないとはいえ、人の目のある場所で?と、戸惑った。

「ほら、早く」

「う、うん」

 小声で促されて、そっと差し出す。
 串ごと受け取ってくれるかと思いきや、光毅さんは私の手を優しく掴んで自分に近づけ、そのままパクリと団子を口に入れた。

「美味しいな」

 突然のことにあぜんとしながら、こくこくとうなずく。

「いやあ、仲がよくてなにより」

 ちょうどその場を見ていたのか、招待されていたホテルの経営者が茶化すように言う。

「見られてしまいましたか。まだまだ新婚気分なので、許してくださいね」

 悪びれる様子も照れる様子もなく、父親世代のその男性に光毅さんが堂々と言ってのける。

「これは、ごちそうさま」

 彼の方もただただ微笑ましいという顔をして、その場を後にした。

「……恥ずかしかった」

 近くに人がいなくなり、小声で抗議する。けれど彼は、健やかな笑みひとつで流した。

 それから別の施設も回り、仕事としてはここまでだとようやく解放される。

「せっかくだから、家族に会っておいで」

 光毅さん自身は、まだ話しておきたい相手がいるようだ。

「ありがとう。それじゃあ、行ってくるね」

 タイミングが合えば、自分も祖父母らに挨拶をしたいと光毅さんが言う。私の家族に配慮をしてくれるのは、素直にうれしかった。
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