黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「宇和島光毅の嫁さんだな?」

 数メートル先から声をかけられる。

「え、ええ。どちら様でしょうか?」

 ぶしつけな物言いに呆気にとられながらも、なんとか返した。

 近づかれるにつれて、相手の異様な雰囲気が伝わってくる。
 オシャレで伸ばしているようだったひげは、よく見ればぼさぼさで手入れなどまったくされていない。落ちくぼんだ血走った目は、異様にギラギラとしていた。

 無作法にも、片手はポケットに入れたままだ。足もとが少しおぼつかなくて、とても正気の人とは思えない。

「私に、なにか用でも?」

 怖くなって、じりじりと後ずさる。
 知っている人だろうかと混乱しながら必死で考えるが、思い当たる人物はいない。
 
 私の二メートルほど手前で、男は足を止めた。
 薄汚れた服装は、プレオープンという場には到底ふさわしくない。招待客ではなく、どこかから紛れ込んだようだ。

「大事なもんを奪われる屈辱を、あいつも味わうべきだ。それがこんなお披露目の場でとなれば、ダメージも大きくなるだろうなあ」

 言いたいことはよくわからないが、こちらに対しする敵意や憎悪のような感情ははっきりと伝わってくる。

「どういう、意味でしょうか?」

 震える声でやっと尋ねると、目の前の男はにやあっと笑った。

「俺は宇和島のやろうから、大事なもんを奪ってやりたいんだよ」

 身の危険を感じるが、足が震えて動きだせない。
 ワンピースをぎゅっと掴んで、恐怖に耐える。
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