黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「お、お前、宇和島だな。てめえのせいで、俺は全部を失ったんだ。店も家も、家族もな」

「こ、光毅さん、血、血が出てるから」

「これくらい、大丈夫だ」

 命に別条がないのはわかるが、それでも気が気じゃない。

「てめえも、俺と同じ目に遭えよ」

 ギロリと睨む男の顔が、ますます憎悪にゆがむ。
 血に濡れたナイフをもう一度振りかざし、私たちに近づこうとする。

「こっちだ。いたぞ」

 今にも切りつけようとしていたが、聞こえてきた声に男の勢いが削がれた。

「な、なんだ」

 バタバタと響く足音に、男がうろたえる。その隙を突いて、ナイフが握られた男の腕を光毅さんが捻り上げた。

「やめろ」

 男は闇雲に腕を振り回すが、光毅さんはビクともしない。これまで一度も見たことのない、厳しい表情の光毅さんを前にして、私は彼のケガが心配で止めようと伸ばした腕をぱたりと落とした。

 捻り上げられた痛みに耐えかねて、男の手からナイフが落ちる。

「殺人未遂だ」

 光毅さんにそう言葉にされると、ことの重大さを思い知らされるようだ。

 近づいてきたのは、警備にあたっていたふたりだった。光毅さんは彼らに端的に説明をして、男の身柄を引き渡した。
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