黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「依都、大丈夫か」

 自由になった光毅さんが、素早く私のところへ戻ってくる。

「なにもされていないか?」

 さっきまでの相手を射殺さんばかりの様子は鳴りを潜め、頬に手を添えたり腕に触れたりして私に状態を確認していく。
 そうされている間にも光毅さんが心配で、目に涙が滲んだ。

「私は、大丈夫だから」

 それよりも、光毅さんのケガの方が心配だ。

「こ、光毅さんの、腕」

 震える手で、ケガした箇所を避けて彼の腕に触れる。

「これくらい、大丈夫だ」

 そんなわけがないと、ふるふると首を横に振った。

「お前のせいで、俺は、俺は」

 拘束されてもなお、恨み事をこぼす男を見る。

「あ……」

 ひげや髪が邪魔をして誰だか判別がつかなかったが、一瞬見えた顔は確かに見覚えがあった。

「永田さん?」

 ずいぶん前に、糸貫庵に宿泊していた客だ。同時に、あの場で彼がこぼしていた恨み節を思い出した。

「あの男を知っているのか?」

「う、うん。前に糸貫庵に泊った人。どこかの観光地でお店をしていたけれど、再開発ですべてを手放したと話していたの」

 あのときの彼はすでに自棄になった感じだったが、時間の経過とともにさらに負の感情を募らせてしまったのか。

 その矛先を私に向けたのは、光毅さんとの結婚をテレビで知ったからかもしれない。現代のシンデレラストーリーだと、幸せの象徴のように扱っていた報道を目にして、彼の怒りは限界を突破したのか。

「すまない、依都」

 光毅さんの謝罪にハッとして視線を向ける。ケガをしたのは彼の方だというのに悲痛な顔をしている。
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