黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「俺は……」

「ケガをされていますね。こちらへお願いします」

 なにかを言いかけた光毅さんだが、彼にしては珍しく口を閉じてしまった。

 マスコミまで入っている中で事件を知られるわけにはいかず、人の目につかない個室に案内されて手当てを受ける。縫うほどではなかったが、傷はそれなりに深そうだ。

 処置が済むと、光毅さんは私とふたりで話がしたいと周囲に退席をお願いした。
 向かい合わせに椅子に座り、彼は私の手を両手で包み込んだ。

「怪しい人物が入り込んでいるらしいと聞いて、すぐさま目撃情報を集めさせていた。プレオープンという場でそんな不穏分子を公にはできず、秘密裏に動いていたせいで発見が遅くなってしまった」

 不審者の侵入どころか、人を殺そうとまでしている。こんな話が表沙汰になれば、ようやくプレオープンまでこぎつけたというのに再開発が失敗に終わる可能性だってある。

「俺はこれまで、他人から恨みつらみを何度もぶつけられてきた。今回も俺が狙いだろうと、見当はついていた」

 光毅さんについて調べたとき、ネット上には彼に対する批判が上がっていたことを思い出した。

 彼が悲痛な表情のままなのは、決してケガが痛むからではないのだろう。かける言葉が見つからず、ただ静かに耳を傾け続けた。

「だが、今日は依都を伴っている。しかも妻だとセレモニーで披露した。嫌な予感がして、話を切り上げてすぐに依都を探した」

 その予感は、残念ながら当たっていた。犯人は光毅さんを苦しめるために私を狙ったと明言している。

「直前に、依都の幼馴染に会ったんだ。彼にはずいぶん嫌われてしまったようだ。依都を泣かせたら絶対に許さないと言いながらも、さっきまで話していたと教えてくれた。慌てて駆けつけてみれば……」

 犯人が私に襲いかかる姿を思い出したのか、光毅さんが片手を離して自分の目もとを覆う。
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