黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「依都」

 髪に顔を埋めながら、切なげに呼ばれる。
 状況がよくわからず困惑していると、彼は私を抱きしめる腕の力を強めた。

「俺のそばにいては、依都を傷つけてしまう」

 今日のような事件が、今後も起きかねないと懸念しているのだろうか。

「それは――」

「手放さなくてはと今日のことでさんざん思い知らされたが、それでも依都に俺のそばにいてほしいと願ってしまう」

「え?」

 私たちの結婚は、利害の一致で成立したものだ。目的が達成されれば、いつ離婚になってもおかしくない。

 彼は糸貫庵とその周辺を手に入れたし、私との結婚で世間でのイメージもよくなっている。
 離婚のタイミングとしてはもう少し先の方がいいのかもしれないが、別れた後も夫婦関係を偽装していれば問題はないはず。むしろそうした方が、私に隠すことなく楢村さんとの愛を育める。光毅さんにとってはいいこと尽くしのはずだ。

 それにシンデレラストーリーといえば聞こえがいいかもしれないけれど、要するに本来なら私は彼の立場に見合わないということだ。周りだってそう見ているからこそ、〝シンデレラ〟なんて言われてしまう。

 無関係な人が聞けば羨む結婚でも、身近な人にしたらなんでこの人が相手なのかと不満を抱かせるだけ。私が知らないだけで、光毅さんの周囲でそんな声があってもおかしくない。
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