黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「はいはい。それより、本当にひとりで大丈夫か?」

 すっと心配そうな顔になる大和に苦笑しながら、相変わらず失礼だなと内心で文句を言う。彼は私をいくつと思っているのだろうか。

「べつに喧嘩をしに行くわけじゃないから平気。それより、私が大和より年上だって忘れてない?」

「そうだったか? てっきり依都は俺より妹分だと思っていたけど」

 意地悪な笑みを浮かべる大和を、つい睨んでしまう。彼といると、どうにも子どもっぽい振る舞いになる。

「ほらほら、依都。かわいい顔が台無しだぞ」

 どこまで私を馬鹿にするのかと視線をさらに鋭くしつつ、大和はいつもこうだとあきらめるように息を吐き出した。

「車に気をつけてな。それから、知らない人についていくなよ」

「もう! 大和ったら」

「冗談だって。やっぱり依都は着物が似合うな。綺麗だ」

「ありがとう」

 ふんっと顔を背けた私のご機嫌取りを始めた大和に、あきれながらとりあえず返した。

「ほら、遅れるぞ。行ってこい」

 祖父母には大和に伝言を頼んで旅館を後にする。
 けれど数歩進んだところで足を止めて、背後を振り返った。

 彼が茶化してくれたおかげで、緊張がわずかに緩んでいる。さっきのやりとりは大和なりの激励だったのだろうと、自然と笑みが浮かんだ。

 入口でまだ私を見送り続けてくれていた大和に手を振る。素直じゃない大和の気づかいに、胸の奥が温かくなった。
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