黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 定刻の五分前になり、スーツ姿の男性がふたりと、ひとりの女性が入室してきた。三人はそのまま、主催者の席に着く。

 先日声をかけてきた宇和島リゾートの社長と、あの場にもいた女性。それから、彼の部下らしき男性がひとり。

 持参した資料をテーブルに用意し終えた宇和島社長が、不意に顔を上げて室内をゆっくりと見回す。途中で小さく顎を引いたのは、顔見知りとなった誰かと目が合ったからだろうか。反対派の人間とも着実に関係づくりが進んでいるのだと、それだけで伝わってきた。

 先日も思ったが、彼は本当に整った容姿をしている。自信のみなぎる意志の強い視線は少し怖いくらいなのに、常に上がった口角がその印象を中和しているようだ。

 無意識にじっと見つめていた私と、彼の視線が交差する。相手を凝視するなんて失礼過ぎたと遅れて気づき、小さく会釈をしてすぐに顔をうつむかせた。

「定刻になりましたので、始めさせていただきます」

 しばらくそのままでいるうちに時間になり、開始が宣言される。メインで話しているのは、社長とは別の男性社員だ。

「これまでも説明させていただきましたが、ターゲットはファミリー層。家族で楽しめる観光地を目指し、一団体当たりの人数の増加を狙っています」

 すでに建設が始まっている複数の施設について紹介していく。その進捗状況を画像と共に示されると、ずっと反対し続けている側としては差がどんどん広がっていくようで焦りを感じる。

「お子様向けのアミューズメントを充実させ、楽しい思い出をたくさん作っていただく。そしてその子が大人になったとき、両親と自身の子どもを連れて親子三世代でもう一度遊びに行きたいと思わせる。そんなつながりを大切にした観光地づくりを目指しています」

 この理念は説明会のたびに語られているようで、何度か参加したという大和も教えてくれた。一過性の人気取りでないのは私も賛成だ。
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