黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「古くから通ってくれている年配の観光客は、この辺りがおたくらの言うような賑やかな場になってしまえば足が遠のくんじゃないか」

 住民側から声があがる。私が大切にしたいのもそこだと、小さくうなずいた。

 新規顧客ばかりに目を向けて、昔から贔屓にしてくれている客を蔑ろにしたくない。そんな思いが、ここにいる反対派の根本にあるのだろう。

「何度も言ってきたが、私らはそういう客に支えられてきたんだ」

 話していた社員は少し困った顔をしたのに対し、宇和島社長は穏やかな表情をキープしている。発言者と視線を合わせて、うなずきながら聞いていた。

 このやりとりも、きっと何度も繰り返されてきたのだろう。

 反対派からあがる意見に、その都度耳を傾けながら説明が続く。時間はかかるが「後ほど質疑応答の時間が」と連呼されるよりも、意見をぶつけた側の不満も聞いてもらえたことで少しは解消されているようだ。
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