黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 もしここにいる反対派の理解が得られたらと、説明の内容が移り変わった。

「昨今は国内だけでなく、海外からの観光客も劇的に増えています。そういった客層も取り込んでいくことを目指しています」

「ようするに古臭いものは取り壊して、大柄の外国人にも対応できる宿泊施設をばかり作っていくんだろ? そうなれば、俺たちは用なしだ」

「いえ、そうではなくて」

 徐々にヒートアップしていく人もいるが、荒い言い合いになるまではいかない。それはここまでの発言でガス抜きできていたのと、宇和島社長の真摯な態度のおかげかもしれない。彼の落ち着き払った振る舞いを前にすると、気持ちの昂りも冷めていく気がする。

「俺たちはここで生きているんだ。仕事を奪われ土地を追われ。一時の金は手にできても、その後の保障はなにもない」

 代々続く商売をここで辞めたくないだけでなく、自身の将来に不安しかない。これもまた、反対派の本音だ。

「リニューアル後も、できるだけ地元からの採用を……」

「その理想を、おたくらの誘致した企業がすべてのむと約束しているのか?」

 宇和島リゾートにそこまでの権限はないのではと、不満の声が続く。

 現状、反対派が営むお店はどこも収益が減り続けているような状況だろう。なにもしなければ、再開発に関係なく立ちいかなくなるのは誰もが薄々感じているはず。

 だからといって、古き良き伝統をなくしたくはない。その理想と現実の矛盾に、ここにいる全員が悩んでいる。

 もちろん私も糸貫庵を愛してくれる客がいる以上、絶対に存続させたいと思っている。
 けれど、なにも手を打たなければ由奈の代になって立ち行かなくなるのもわかっていた。
< 26 / 178 >

この作品をシェア

pagetop