黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 空き瓶が入ったコンテナを抱えて、旅館の裏口を出る。
 これまで畑違いの仕事をしてきた私では、表に立つ仕事は務まらない。だから、こうして自分にできる雑務を率先して引き受けている。

「ふう」

 指定の場所にコンテナを置く。なかなかの重労働だったと、背筋をぐっと伸ばした。

 それから掃除用具を手に、旅館の正面へ向かう。この時期は、とにかく落ち葉が多い。入口から続く駐車場まで手が空くたびに掃き掃除をする必要がある。

「ご苦労なこった」

 白い息を吐きながら鼻歌まじりに箒で掃いていたところ、突如聞こえてきた声にハッとして周囲を見回した。
 いつからそこにいたのか。敷地内の木の根元に、缶ビールを片手に座り込む男性がいた。

永田(ながた)さま、どうかされましたか? 今日は特に寒いので、お風邪をひいてしまいますよ」

 糸貫庵に宿泊している客だと気づいて声をかけると、彼は意外そうな顔をした。

 年齢は五十代だろうか。たしか今日が初めての来館で、ひとりでの利用だったはず。どことなく投げやりな雰囲気が気になっていたが、ここへは嫌なことをわすれるために来たのかと目の前の彼の雰囲気から想像する。

「俺みたいなはした客まで把握しているのは、大したもんだな」

「大切なお客様ですから。」

 どこか嘲るような調子だったが、気づかないふりをする。彼は相当アルコールを口にしている雰囲気だし、変に刺激をしない方がいいだろう。
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