黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「あの社長も鬼だ悪魔だと言われていたが、実際に会ってみりゃいかにもいい人そうなやつじゃないか。悪く言うのは、てっきり負け惜しみかかと思ったくらいだ」

「社長って、宇和島リゾートの?」

 つい口を挟んだが、気を悪くした様子はなくてほっとする。

「ああ、あの若造だ。まさしく悪魔のような男だよ」

 あの穏やかそうな宇和島さんが?と首を捻る。

「善人ぶった振る舞いは、全部見せかけだったってわけだ。みんなも、すっかりだまされちまって」

 悔しげに吐き出す永田様を見ていると、私の中で不安が大きくなっていく。

「今はこの辺りがターゲットにされてるんだろ? どんなものかとこうして見に来たが、俺のときとまったく同じようだな」

 そう言いながら、工事の始まった方角を睨む。

「悪いことは言わねえ。宇和島の言葉を真に受けると、不幸になるだけだ。身ぐるみはがされちまうぞ」

「そんな……」

「どうせ手放すなら、これっでもかってくらいの条件を吹っかけてやれ。相場以上の金をぶんどらなけりゃ、意地でも手放すな。地獄を見るぞ」

 言いたいことはすべて吐き出したとばかりに、無造作に立ち上がった彼はこちら振り返ることなく旅館の中へと戻っていった。

「どういうこと?」

 寒空の下で、ポツリとつぶやく。

 説明会や車に乗せてもらったときに話した様子から、宇和島社長はそんな非情な人には見えなかった。
 開発を進めるという方針を一方的に押しつけるのではなく、彼は私たちの言葉に耳を傾けながら寄り添う姿勢を取っていたはず。相容れない間柄とはいえ、険悪な関係ではなかった。

「あれが全部演技だっていうの?」

 今の話が事実なら、賛成に回った途端に手のひらを返されるかもしれない。
 いや、すぐにではないはず。上手いことを言って私たちの信頼をキープしつつ、時期が来たら知らぬ存ぜぬを通すつもりか。
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