黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 それからも、宇和島さんを地元で何回か見かけていた。大和によれば、彼は以前よりも頻繁に足を運んでいるらしい。

 誠実だと、以前の私なら好意的に受け入れていたはず。
 それが今は、問題を早々に片を付けたいから畳みかけるように訪問しているとも見えてしまう。

 祖父母や近所の人たちは、宇和島さんを熱心な人だとますます認めているのを肌で感じる。

 永田様の話を聞いてしまった私としては、彼について周囲の評判通りに受け止めていいのかわからない。
 彼は、善人ぶっているだけではないか。何度も訪問するのは今だけだ。
 事が思うように運んだら、被っていた猫を外して横暴な振る舞いをするようになるかもしれない。そんな不安が拭えないでいた。

「さむっ」

 通りを歩きながら、コートの合わせをぐっと掴む。

 休日の今日は、久しぶりに地元の友人に会いに行ってきた。
 糸貫庵の現状を思えば出歩いてなんていられないという気持ちが強かったが、由奈にたまには力を抜いてゆっくりするべきだと諭されてしまった。

 出かけるまで迷いがあったけれど、久しぶりに会う友人と取り留めもない話をして気分はすっきりしている。由奈の助言に従ったのは正解だった。

 友人との話を思い起こしながら足早に進んでいたところに、不穏な声が聞こえて立ち止まった。
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