黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
翌日の夜になり、ひとりで訪ねてきた宇和島さんを祖父母とともに迎え入れた。祖父はあらかじめなにかを言われているのか、彼を旅館の応接室ではなく自宅の居間に通した。
祖父母と並んで座り、失礼にならない程度に彼の様子をうかがう。
スーツをビシッと着こなした宇和島さんは、人好きのする穏やかな表情を浮かべている。もう夜だというのに、疲れた様子は微塵も感じさせない。
「お忙しい中、時間を取っていただきありがとうございます」
耳心地のよい低く滑らかな口調でそう言い、社長という立場にありながら抵抗なく頭を下げる。
「それで、お話とは?」
彼がお茶に口をつけるのを待って、祖父が静かに問いかけた。
なにを言われるのだろう。私たちが反対し続けることに業を煮やして強引な手段に出る気かと、密かに身構える。
「本日は、依都さんに結婚を申し込みに来ました」
「結婚!?」
予想外過ぎる言葉に、ピンと背筋を伸ばして大きな声をあげた。
すぐにハッとして、手で口を覆う。
いつもなら無作法だと咎めてくる祖母も、驚きに目を見開いている。その向こうの祖父の様子は、私のところからはよくわからなかった。
「この辺りには、私も幾度となく足を運んできました。そこで、依都さんを何度かお見かけしていました」
それは私も同じだし、一度は市街地まで車で送ってもらっている。そのときのことは、祖父母にも話してあった。