黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「依都さんについて、この辺りの人たちは口をそろえたように明るくしっかりした方だとおっしゃっていました。実際に私が目にした姿も、まさしくその通りで」

 そう言いながら彼は、なにかを思い出したかのように小さく笑った。

「働き者で家族思い。少し無鉄砲だと心配になる面もありますが、この旅館を守り抜きたいという一途さと、意志の強さを持つ素敵な女性です」

 思わぬ賛辞と、少し無鉄砲だという指摘が妙に恥ずかしくて両手で顔を覆う。照れている場合ではないとわかっているのに、恋愛の経験値がゼロの私では平静でいられない。

「そんな依都さんを見ていると、傲慢ですが自分が守ってあげないといけない気持ちにさせられて。気づけばすっかり惹かれていました」

 指の隙間からチラリと彼を見る。私と目が合った途端に微笑み返されて、ドキリと鼓動が跳ねた。

 私だって年頃の女だから、恋愛に憧れはある。真偽のほどはともかく、好意的な言葉を並べられたら浮かれてしまう。

 でも、相手が悪すぎる。
 彼には楢村さんという親密な女性がいるのだし、なにより善人の顔をして私たちを騙している疑惑も否定できない。

「彼女のひたむきな気持ちに感銘を受けて、糸貫庵を含むこの辺りについて私も再考してきました」

 旅館の名前を出されて、うるさかった鼓動がゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
 頬から手を外して、彼の言葉に耳を傾けた。

「誤解のないように言っておきますが、決して私情での意見ではありませんので」

「それはもちろん。あなたのこれまでの姿勢を見ていればわかります」

 よほど彼を信頼しているのか、すぐさま祖父が返した。
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