黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 宇和島さんを見送った後、もう少し話をしようと三人で居間に引き返す。

「お姉ちゃん、なんの話だったの?」

 その途中で、由奈が声をかけてきた。
 次代は彼女が担っていく予定でいた以上、由奈にも話をオープンにするべきだろう。そう考えて彼女にも合流してもらう。

「糸貫庵の今後をエサにして、お姉ちゃんに無理やり結婚を迫ってもおかしくないのに……」

「由奈。エサはないでしょ」

 孫の言葉遣いをそっと窘める祖母だが、由奈の言い分はもっともだ。

「でも、そこまで真摯な人に求められるなんて、さすがお姉ちゃん!」

「まあ、依都も由奈も、どこに出しても恥ずかしくないように育ててきたつもりよ」

 どこか誇らしげな祖母に、厳寒な祖父もひとつうなずく。

「糸貫庵の今後についてはともかく、依都は彼との話をどう思っているんだ?」

 祖父にズバリ尋ねられて、考えを巡らす。

「正直なところ、こんなうまい話があるのかって」

 あの人を完全に信用していいのか、私には迷いしかない。

「それに、宇和島さんのことを私はよく知らないし」

 耳にした悪い噂が、私を疑心暗鬼にさせる。

 彼は結婚と糸貫庵の話は別だと言っていたが、あの場で旅館の今後について触れたのは意図するところがあったに違いない。話した時間の長さは、むしろ糸貫庵の話題がメインになっていた。暗にふたつはセットだと仄めかされていたのではないか。

「大企業の社長に嫁ぐのは、荷が重いかもしれないけれど。私は依都が幸せになれるのならいいと思うわよ」

 本人の気持ち次第だと念を押しながら、祖母が言う。

「私も、賛成。宇和島さんなら、お姉ちゃんを任せられると思うもん。あっ、でも大和がかわいそうかも」

「なんで大和が関係するのよ。彼なら手に職があるから、万が一糸貫庵で働けなくなってもきっと大丈夫よ」

 そう言った私に、妹は苦笑いをした。
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