黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「ひとまず」

 すっかり聞き役に回っていた祖父が声をあげる。

「糸貫庵に関しては、彼とももう少し詳しく話して十分に検討する」

 それでいいと、うなずき返す。

「縁談については、依都しだいだ。糸貫庵の処遇は気にしなくていいから、よく考えなさい」

 三人そろってうなずかれて、私はなにも言葉を返せなかった。

 自室に入って、大きくため息をつく。
 由奈も祖父母も、すっかり宇和島さんを信頼しきっている。

 彼に関する後ろ暗い話を打ち明けようにも、あの様子だと言葉通りに受け取らないだろうと察せられた。なにか事情があるだとか、やっかみや逆恨みだろうと聞き流されてしまいそうだ。

 楢村さんという部下の女性との関係についても、実際に目にしていなければ気のせいだと言われるかもしれない。

 私しだいだとしながら、とくに由奈と祖母はこの縁談に乗り気であるのがひしひしと伝わってきた。
 もし私が断わったら、糸貫庵は見捨てられてしまうのか。そう考えると、決断するのが怖くなる。

「宇和島さん本人と、話をしてみるべきだよね」

 ベッドに座ってポツリとつぶやく。
 プライベートな連絡先を交換してきたくらいだから、彼にもその意思はあるのだろう。

 あの容姿で地位もある男性が、私なんかに好意を寄せるなんて信じられない。
 本当の目的は、この土地ではないのか。
 彼の本性を探るべきだ。そう決意した私は、宇和島さんにふたりで会ってほしいと約束を取りつけた。


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