黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 案内をしてくれたスタッフにお礼を言い、中庭に足を踏み入れる。

「うわぁ」

 目の前に広がる洋風の庭に、思わず感嘆の声が漏れた。

 石畳の小道を進み、レンガで囲われた花壇に近づく。
 聞いていた通り、そこには色とりどりのビオラにパンジーも植えられていた。オレンジや紫といったメジャーな種類だけでなく、アンティーク調の淡い落ち着いた色合いのものもある。

 さらに小道を済むとアイアンで作られたアーチがあり、それに這わせたクレマチスの白い花が見事に咲き誇っていた。

「素敵」

 クレマチスのトンネルをくぐり、一角に集められたテラコッタに近づく。どこには数種類のハーブが寄せ植えられていた。
 紫色の小さな花を咲かせたローズマリーの葉にそっと触れて、指に移った香りを楽しむ。気づけばすっかりリラックスして、冬の庭を楽しんでいた。

 軽く一周し終えたところで時間を確認すると、待ち合わせまであと五分ほどになっていた。

 名残惜しいけれどそろそろ移動しようかと動きかけたところで、宇和島さんが入ってくるのが見えた。
 何度か来ているお店なのか、彼はスタッフの案内を断わってさっさと歩きだす。植物の陰になっているのもあり、私の存在には気づいていないようだ。

 自分もそちらへ向かおうとしたそのとき。彼の半歩後ろを歩く楢村さんの姿を見つけて、とっさに息を潜めた。
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