黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
 対外的な印象にも配慮していると、楢村さんに話していた。それならばあの温泉街が再出発してしばらくするまでは、私との良好な関係を維持する必要があるだろう。
 早々に別れてしまうと、土地を手に入れるだけの結婚だったのかと非難の目が向けられる可能性もある。

 先行して工事が進んでいるエリアは、すでに完成が見えている。
 けれど、すべてのエリアがオープンするのはまだ数年先になるだろう。
 長く婚約どまりでいては、周囲に疑念を抱かせかねない。いずれ結婚する必要が出てくるかもしれない。

 自身のプライベートまで仕事に利用するなんて、私には理解できない。

 ただ、どれだけ考えても答えはひとつしか見つからない。

 糸貫庵を守りたい。できれば由奈の立場も守りたい。
 この人と結婚することでそれが叶うのならばと考える私も、結局は彼と同じなのかもしれない。

 宇和島さんの思惑を知っていると、ここで明かしてもなおさら結婚をと圧をかけられるだけだ。
 彼から好条件を引きだせたのだし、この辺りが妥協点なのだろう。口約束にならないように、婚姻届を書く際にこの件についても書面してもらうべきかもしれない。

 テーブルの下で手を握りしめながら、ゴクリと喉を鳴らす。
 絶対に、約束は実行してもらう。それを見届けるまでは気を許してはいけないと、決意を込めて彼を見つめた。
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